開発者の声

CheckLinkのシステム・デザインと授業での活用例

奥田裕司(福岡大学教授)

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 CheckLinkの開発にあたっては、授業中に学習者がやる気を持って積極的に解答することができ、e-learning初心者の教師でも常に効果的・効率的な解説を行えるようなシステム・デザインを心がけました。そのために、様々な機能の設定を、教師が自分の授業内環境に合わせて調整できるように工夫しています。

「解答する」ことから好循環を生むシステム・デザイン

 一言に「解答する」と言っても、学習者は「授業だから何となく」「当てられるかもしれないので」「試験勉強のために」という消極的な姿勢かもしれません。そもそも、紙媒体のテキストを使用した授業では解答したかどうか誰にも分からないので解答などしていないという学習者もいることでしょう。CheckLinkシステムの開発にあたり、この「解答する」という授業では当たり前の行為を、「積極的に解答する」という姿勢に変えていく様にシステム・デザインを心がけました。
 CheckLinkシステムを利用すれば、学習者が解答したかどうかを教師がPCや手持ちのタブレット端末・スマートフォン端末で授業中リアルタイムに確認することができます。未解答の学習者の名前も即時に認識できますので、学習者は「確実に解答をする」ようになります。
 従来のe-learningシステムでは、正解・不正解を学習者に対して示し、その解説までしてくれる「親切過ぎる」教材がほとんどです。しかしこれでは、授業中における教師の役割が非常に小さくなってしまい、授業という同じ時間と空間を共有している「教師と学習者」の役割バランスが良い授業内環境とは言えません。

 CheckLinkのデフォルト設定では、学習者側の画面には正解不正解の結果や正答の表示も出てきません(教師の設定で表示選択も可能です)。つまりCheckLinkでは、学習者はインターネット上では解答をするだけで、自分の解答が正解だったのか不正解だったのか、正答はどれなのか、教師の口からそれが出てくるのを待っているという状況を敢えて作り出すのです。
 実際にCheckLinkシステムを検証した私の授業では、学習者は私の発言に積極的に耳を傾けるようになり、私が正解を言うと、その発言に一喜一憂するようになり、さらには、なぜ答えがそうだったのか、私の解説も真剣に聞くようになりました。これは、学習者が「確実に解答をしたが、結果は自動的には知らされない」という結果から生じる自然な流れに他なりません。
 ICTの大きな進歩により、e-learningでは学習者に対して様々なサービス提供が可能になりましたが、技術的に全て可能であるからといって本来の人間(教師)の役割をも削除してしまう様なシステム・デザインは好ましいとは言えません。技術と人間の役割分担は慎重にデザインされるべきであるとCheckLink開発チームは考えております。

「解答する」から「積極的に解答する」へ

 CheckLinkは、その「解答する」という行為を更に「積極的に解答する」という行為へと変えていくために、幾つかの仕組みを設けています。

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 まず、「クラス内正解率の表示」です。学習者が解答をした後、どの選択肢にどれだけの解答が集まり、クラス内の正解率がどうであったかや、どの錯乱肢にどれ位引っかかっていたのかも教師が瞬時に一目で分かるようにしています。
 実際に私の授業では、私が正解を言う前に、正解率が◯◯%で低かった事をまず告げてから正解を言うと、正解した学習者は非常に喜びました。あるいは、正解率が高かったのに出来ていなかった学習者は、どうして自分が出来ていなかったのか非常に印象に残り、私の解説をしっかり聞いて理解しようとしていました。
 更に、解答させた単位(TOEICであれば、各Part毎)での「正解数別集計」も確認できます。つまり、一度に解答させたのが4問分であれば、全問(4問)正解が◯人(◯%)、3問が◯人(◯%)という情報が分かるようにしています。
 私の授業では、全問正解人数が少ない場合、当該学習者は非常に喜びましたし、全問不正解が少なかったのに該当してしまった学習者は正解に向けて頑張るようになりました。クラス内での自分の正解度合いの立ち位置を学習者に認識させるというのは、解答するモチベーションに直結する大切な情報となります。

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 もう一つの正解率表示はクラス内だけに留まらず、「そのテキストを採用している全国での正解率」表示であり、教師・学習者共に確認をすることが可能となっています。この情報に関しては、教師側では常に確認できる状態にしておりますが、学習者側への全国正解率表示はON/OFFの設定を教師ができるようにしています。学習者にとっては、解答時に全国正解率が分かれば、難易度の高い問題に対しては解答へのチャレンジ精神が生まれるという利点があります。しかし一方で、解答した結果が全国平均に比べ良くない状態が余りに続くと、クラス全体に沈滞した雰囲気が生まれてしまいますので、デフォルト設定では表示をOFFにしています。積極的に全国正解率を学習者解答画面に表示しておきたいという先生は、表示をONに切り替えてください。
 このように全国には様々な教師・学習者・学校・クラスがあり、十人十色と言われるように授業内環境も極めて多種多様です。CheckLink開発チームでは、e-learning システムとは本来その多種多様な授業内環境に合わせて、教師自身が設定を調合しクラスに適合した形で学習者に提供するべきであると考えておりますので、様々な設定のON/OFF切り替えを教師のさじ加減で簡単に変更できるようシステム・デザインを行なっています。この、教師が状況に合わせて設定をコントロールできるという点は、従来のe-learningシステムにはないCheckLinkシステムの大きな特徴の一つです。

「カウントダウンタイマー」機能で緊張感を

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 「積極的に解答する」事を促すもう一つのアプローチとして、「カウントダウンタイマー」機能があります。教師が「では解答を始めてください」「それでは解答をやめてください」といくら口で言っても、のんびりとした学習者側は、漫然と解答を始めバラバラに解答を終了してしまいます。これでは、せっかくの「解答する」という行為に緊張感を伴いませんので、ある程度の強制力が必要であると判断し、CheckLinkでは教師が解答に任意の制限時間を設定できる様にしました。もちろんこの機能でもON/OFFの切り替えを可能にしております。

授業が活性化される好循環が生まれる

 以上のように様々な「積極的に解答する」仕組みを設けることで、学習者が「解答する」→教師が「正解率等の情報を添えて正解を言う」→学習者が「結果を確認する」→教師が「正解率に応じて適切な解説をする」→学習者が「真剣に解説を聞く」という好循環が授業内に生まれてきます。そうすることで、実際に私のクラスでも一体感が生まれ、漫然としていた普段の授業が、授業内環境に合わせた私の様々な機能設定コントロールに従って活性化されるようになって行きました。

e-learning初心者でも扱いやすいシステム・デザイン

 CheckLink開発チームは、これまでe-learningは敷居が高く、自分の授業では縁遠いものとお考えになられていた先生方にも是非活用して頂けるようなシステム・デザインを心がけました。
 e-learningと言えば、インターネット上での「登録」が付き物です。まだ授業が始まったばかりの時期に登録作業を行い、幾人もの学習者が上手く行かずに混乱を生じるという嫌な経験をされた先生も多いのではないでしょうか。登録という作業は、e-learning導入に二の足を踏む大きな要因となっているのです。
 CheckLink開発チームは、あらゆる角度から登録トラブルに繋がる可能性を探り検証し議論を重ね、普通の学習者であれば、CheckLink対応テキストの巻頭に書かれているマニュアル(CheckLinkの使い方)通りに進めれば、教師に説明を求めること無く(教師が何も知らなくても)数分で登録作業が終わるように様々な工夫を凝らしました。どこに工夫をこらしたのか気づかない程スムーズに登録作業を終えて頂けるのではないかと思っております。

管理画面もシンプルでわかりやすく

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 CheckLinkでは、学習者の解答画面もできる限りシンプルなものにするよう心がけております。教師が扱う画面も分かりやすいものにしました。本システムの特徴である解答時間制限や正解率表示等の様々な機能も、デフォルトでは全てOFFに設定しています。煩わしい設定は行わず学習者の正解率さえ分かれば良いという先生方の要望を基本とし、授業内環境に応じて機能を付加したい先生方が好みに応じて「設定画面」で機能を一つ一つONにして頂けるようにしております。もちろん学期途中であっても、移り変わるクラス状況に応じていつでも機能設定のON/OFF切替が可能です。

授業そのものを活性化することに特化

 CheckLinkが目指すのは、あくまでも「授業自体を活性化する」シンプルなシステムですので、学習者の学習履歴をグラフ化したり、学習者に自動的に学習進度のお知らせを送ったりといった重々しい機能は敢えて付けておりません。しかし、ある問題に対して、どの学習者が正解不正解であったのかとか、特定の学習者の解答状況を確認するといった基本的な学習管理は分かり易く簡単に出来るよう設計していますので、学期途中の形成的評価にも使用して頂けますし、どの問題の正解率が低かったのかは簡単にチェックできますので、正解率の低かった問題をピックアップしてそのまま試験問題作成に活用して頂くことができます。個々の学習者が「いつ解答をして、どの位正解している」等の学習状況も分かりやすく確認できますので、最終的な成績評価の判断材料としてご活用頂ければと思います。
 更に、教師側からの掲示板(お知らせ)機能も設置しておりますので、クラス全体への連絡に加え、授業で用いた音声部分のスクリプト・ファイル(word、pdf等)や音声ファイル自体の学習者への提供も可能となっています。

環境に左右されないシステム・デザイン

 近年、多くの大学では年末から年始にかけて次年度のシラバスを提出しなくてはならない状況になっています。シラバスの提出と前後して、CALL/PC教室の申請も行います。PC利用を前提としたテキストを採用したのに、結局CALL/PC教室の希望が叶えられず、普通教室用のテキストに変更しシラバスも書き直さなくてはならないという経験をされた先生も少なからずおられるのではないでしょうか。
 CheckLinkシステムでは、その様な心配無しにテキスト選定を行うことが出来るようシステム・デザインを行なっております。学習者がPC以外にも手持ちのスマートフォン端末や、それ以前の携帯電話端末からも解答が出来るように携帯電話端末用のシンプルな画面を用意しております。教師もPCはもちろん手持ちのタブレット端末やスマートフォン端末からも解答状況を確認することが可能になっています。ネットワークにおいては、Wi-Fi環境はもちろん、携帯電話電波環境でも十分に動作するようにしておりますので、CALL/PC教室の希望が叶えられなかったからといってテキストやシラバス変更をする必要はありません。PCや学内ネットワークとは全く無縁な普通教室でもCheckLinkを活用したデジタル学習環境を実践することが十分可能であるようシステム・デザインを行なっております。極端に言えば、携帯電話の電波さえ届けば、「晴れた日には教室を離れて屋外でe-learningを活用した授業を」という授業環境もあって良いのではないでしょうか。これまで、「PC端末の性能やOSシステムのバージョン、教室のネットワーク・インフラ環境」等の数値に嫌になるほど縛られ、授業の主役を演じる一人であるはずの教師の存在がいつの間にか脇役になってしまっていた従来の大掛かりなe-learningとは別の、「教師と学習者が共に主役として役割を演じ、より良い授業内環境を一緒に作り上げる」e-learning体験をCheckLinkでして頂ければと願っております。